第27章 Face
「さて、と…」
岡田がシートから身体を起こすと、重ねたままの俺の手の下から自分の手を引き抜き、アクセルを踏み込んだ。
「お前さぁ、忘れてるかもしれないけど、俺、お前に惚れてんだよ?」
忘れてないよ…。
忘れられるわけがない。
「勘違いしたくないから…」
そうだ。
どんなに岡田が俺を想ってくれても、岡田の気持ちに俺は応えることは出来ないんだ。
それなのに…
「ごめん…」
「バーカ、謝ってんじゃないよ。余計に惨めになんだろ?」
分かってる。
それでも俺には謝ることしか出来ないから。
「さ、急ぐぞ? そろそろ深山も着く頃だし」
誤魔化すように、岡田が困り顔を車窓に向けた。
「えっ、深山さんが? どうして?」
深山さんが同行するなんて、聞いてない。
「ああ、深山には長瀬さんが不在の間、工場の留守番を頼んだんだ。今回の放火は怨恨の可能性もあるからね。それに…」
そこまで言って、岡田が唇をキュッと結んだ。
が、その先の言葉は、聞かなくても大体想像がつく。
考えたくはないが、今回のボヤ騒動が、智君の事件関係者の仕業だとしたら…
侑李が危険に晒される可能性だって、ゼロではない筈だ。
侑李を一人にするわけにはいかない、といったところだろう。
「でも仮に俺達の考えが合ってたとしたら、こっちの手の内は…」
「バレバレだろうな…」
そんな…
いや、でも今は“可能性”でしかないんだ。
今は信じるしか…