第27章 Face
エレベーターホールに向かう途中、ポケットの中でスマホが震えたが、多分岡田からの催促の電話だと思い、出ることはしなかった。
もっとも両手が荷物で塞がっていては、電話を持つことすら出来ないけど…
エレベーターに乗り込み、一階まで降りると、岡田が青ざめた顔で俺を出迎えた。
「どうした? 何かあったの?」
理由を聞こうとした俺から荷物をひったくると、岡田は早く車に乗れとばかりに、大股で歩き出した。
「お、おいっ…!」
呼びかけにも、当然応じることはない。
でも“何か“不測の事態が起きていることは、岡田の青ざめた顔からも、容易に伺い知ることが出来る。
俺は既に車に乗り込もうとしている岡田に、俺はそれ以上問うこともなく、少し早めた足で追いかけた。
マンションの車寄せに停めてあった岡田の車は、エンジンはおろか、キーも刺さったままの状態で…
何事にも慎重な岡田にはありえないことだ。
最近になって買い換えたばかりの新車…それも“高級”な部類に入る車だ。
それなのに、数分のこととは言え、こんな不用心な状態で放置するとは…余程焦っているのか…
先に運転席に乗り込んだ岡田に続いて、助手席に乗り込んだ俺の胸の奥に、えも知れぬ不安が込み上げてくる。