第27章 Face
その朝、俺は普段よりも早く目覚めた。
…と、言うよりは、寧ろ“眠れなかった”の方が正しいのかもしれない。
ずっと足が地に着いていないような…
決して浮かれているわけではない。
その逆…
だって身体は異常な程に重たく感じてる。
やはり断れば良かったのか…
いくら“守るため“とは言え、智君を酷い目に合わせた奴だ。
冷静でいられる自信なんて…俺にはない。
もしかしたら、顔を見た瞬間、殴りかかりたい衝動に駆られたり…
なんて…弁護士という職業柄、冷静さを欠くことは、許されないのに…
相変わらず了見が狭いと、自分でもほとほと嫌になる。
放っておけばマイナスの方向に向きがちな思考を諌めるため、俺は怠い身体に、少々熱めのシャワーを浴びた。
それでも冴えない頭は…もうどうしようもないのか…
濡れた髪からポツリポツリと滴る雫をバスタオルで乱暴に拭い、熱いシャワーを浴びて火照っている筈なのに、何故だか冷えきっている身体に、カッターシャツを纏った。
“弁護士“として会うわけじゃない。
“智君の恋人”として、だ。
なのにスーツを身に付け、引き出しの奥底に仕舞っておいた弁護士バッジを着けるのは、弁護士の端くれとしてのプライドからなのか…
これじゃまるで、戦闘に行く兵士だな…
鏡の中の自分に自嘲して、俺はズッシリと重い鞄を手に、玄関を出た。