第26章 Related
チリンと店のチャイムを鳴らして岡田が飛び込んで来たのは、既に茂さんが帰り支度を整えた後の事だった。
余程仕事が忙しいのか、髪も乱れ、薄らとではあるけど、無精髭まで生えている。
「いやー、すみませんねぇ…。中々どうして片付かない案件があって…」
と、バツが悪そうに茂さんに向かって頭を下げた岡田は、やはりどこか疲れているようにも見えて…
岡田を休ませてやりたい気持ちはあっても、これ以上長居しては、茂さんにも申し訳ない。
俺は早々に席を立つと、茂さんに礼を言ってから、岡田の腕を掴んで店を出た。
「そんな慌てんなよ、櫻井…」
大股で歩く俺に、岡田が苦情を言うが、俺は足を止める気なんてなくて…
事務所が契約している駐車場に着くと、俺は無言で岡田の前に右手を差し出した。
「何? 何なの?」
「運転、俺がするから、鍵貸せ」
「何で?」
「何で、って…。お前疲れてんだろ? 俺は、その…暇だから…」
そうだ…
今の俺に出来ることは、残念だけど、こんなことくらいで…
渋々といった様子でポケットから取り出したキーをひったくると、俺はさっさと運転席に乗り込んだ。
「んじゃ、今日は“我が心の友”櫻井さんの有難いお言葉に甘えることにしましょうかね」
岡田が込み上げる笑いを堪えながら、助手席に乗り込んだ。
ったく、嫌味かよ…