第24章 Confession
翔が病室を出てから、程なくして井ノ原が二人の刑務官を伴って病室に入って来た。
「両手を前に」
一人の刑務官が表情一つ変えることなく言う。
俺はそれに素直に従った。
俺の両手に、冷たい金属の輪が嵌められ、車椅子に乗せられた腰には、ロープが巻き付けられた。
こんなことしなくても、今の俺には走って逃げることなんて、できやしないのに…
「行くぞ」
前後を刑務官に挟まれ、井ノ原がゆっくり車椅子を押し進め始めた。
廊下に出ると、敬礼をしたまま微動だにしない長野と、その横で腕を組んだまま壁に背中を預けた東山が、俺を見つめていた。
翔の姿は…もうそこにはない。
でもきっとどこかで見ている筈だ。
そして声を殺して泣いてんだろうな…
「世話になったな…」
通り過ぎ際に、二人に向かって小さく言う。
自らの立場を危険に犯してまで、俺にとって何物にも変え難い大切な時間を与えてくれたことへの、感謝の気持ちを、少しでも言葉にしたかった。
それなのに、そんなありきたりな言葉しか出て来ない自分自身が…、とことん嫌になる。
それでも二人の、僅かに下がった目尻に、俺のささくれ立った感情が、少しずつ溶けて行くような…そんな気がした。