第23章 Deep Love
「それを聞いて安心しました。それでは俺はこれで…」
俺に向かって軽く頭を下げ、井ノ原さんがドアノブに手をかけるが、何かを思い出したように振り返ると、智君に笑顔を向けた。
「分かってると思うけど、我儘言って櫻井さん困らせるんじゃないぞ?」
「分かってるよ…。ったく、子供扱いすんじゃねぇよ…」
「俺からすりゃ、お前はまだまだガキンチョだ」
そう言って、井ノ原さんが肩を揺らしながら部屋を出て行った。
途端に訪れた静寂に、俺も、そして智君も視線すら合わすことなく、ただ俄かに汗ばんできた掌を、何度もズボンで拭った。
「あの、さ…」
先に口を開いたのは智君の方だった。
「な、なに?」
緊張のせいか、思わず声がひっくり返る。
「トイレ…行きたいんだけど…」
「う、うん…。俺、どうしたらいい?」
智君が布団を捲り、徐に俺に向かって両手を伸ばす。
俺は引き寄せられるように、足を一歩踏み出すと、伸ばされたその手を取ることなく、ベッドの上の智君を抱き上げた。
「えっ…、ちょ…、おいっ…」
「暴れないで? ちゃんと俺に掴まってて?」
智君の両手が、躊躇いがちに俺の首に回される。
「…落とすなよ?」
落とすもんか…
漸く君をこの腕に抱くことが出来たんだから…