第23章 Deep Love
井ノ原さんが視線を逸らした理由が分かり、俺は思わず顔を俯かせた。
でも、ただ一人分かっていない智君は、俺と井ノ原さんの顔を交互に見て、首を傾げた。
「なんだよ、まだなんかあんのかよ…。ってく、ハッキリ…」
「だ、だから、その…なるべく静かにシロってことだよ…。お前も察しろよ…」
「んなこと、分かってるよ。大体ここは病院だろ? 子供じゃあるまいし、そんな大声…………あっ…」
そこまで言って漸く言葉の意味を理解したのか、真っ赤に染まった顔を壁に向けたまま、それきり智君は口を閉ざしてしまった。
「まあ、一応長野さんが警備に当たってるので、何かあれば…ですけどね?」
耳元で親指と小指を立て、電話をかける仕草をしてみせる。
「あと…ですね…」
「まだあんのかよ…」
早く出て行けとばかりに、智君がため息を一つ落とす。
「約束して欲しいんです。馬鹿なことは考えない、って…」
仕事柄、色んなケースを見てきたであろう井ノ原さんの表情が、キュッと険しくなる。
「約束します。俺も、それから智君も、井ノ原さんが考えているようなことは決して…」
自らの立場を危険に危険に犯してまで、俺達のために…
そんな井ノ原さんや長野さんの思いを、裏切ることなんて…出来ない。
それに俺は”闘う”って決めたから…