第23章 Deep Love
「但し…」
自然と緩んで行く頬を、キュッと引き締めるような、井ノ原さんの真剣な声。
「このことはあくまでも“内密”にお願いします。もし上にバレでもしたら、俺も長野さんも…」
井ノ原さんが首元に宛てた手をシュッと横に引いた。
それは“首”を意味している、と判断した俺は、井ノ原さんに向かって頭を下げた。
「勿論です。決して他言はしませんから…」
「俺ね、実は弟がいたんですよ…もう、何年か前に死にましたけどね? 生きてたら、丁度コイツと同じくらいなんです。だから、コイツのこと放っておけなくて…」
心なしか潤んて見える眼鏡の奥の瞳が、愛おしそうに智君に向けられた。
「ま、弟の方がもっと可愛げがありましたけどね?」
「なんだよそれ…。ふざけんな…」
ぶっきらぼうな口調だけど、本当はそう言って貰えて嬉しいんだよね?
膨れて俯いた顔が、少しだけ綻んでいる。
「ってことで、必要な物は一通り揃えておきましたけど、何か足りない物があれば今のうちにどうぞ?」
見ると棚の上には、弁当やら洗顔用具やらが入った袋が置いてある。
「いえ、ここまでして頂いて…。感謝します」
「あと、トイレとシャワーは完備してあるので、そこをお使い下さい。それと…」
不意に俺から視線を逸らした井ノ原さんが、バツの悪そうな顔をして頭を掻いた。