第23章 Deep Love
長野さんを一人廊下に残して病室に入ると、井ノ原さんが赤い顔をして“コホン”と一つ咳払いをした。
その意味に先に気付いたのは、智君の方だった。
「い、いつまで手ぇ握ってんだよ…」
振り払うように解かれた二つの手…
「えっ、あっ…ごめん…」
智君が照れているのが分かった俺は、どうしても笑いが堪えなくて、“失礼”と井ノ原さんに向かって断りを入れてから、二人に背中を向けた。
「…ばか」
智君の小さな呟きにすら、自然と肩が揺れてしまう。
こんな風に笑ったの、久しぶりかもしれない…
一頻り笑って一つ深呼吸をした俺は、再び二人に向き直ると、井ノ原さんが用意してくれたパイプ椅子に腰を下ろした。
「えっと、実は今日起こし頂いたのは、ですね…」
井ノ原さんが俺と智君の顔を交互に見る。
「彼が明日移送されることは…ご存知ですよね?」
「ええ、それなら長瀬さんから連絡を…」
俺が答えると、井ノ原さんが大きく頷いた。
「それで、ですね…。これは本来は許されることではないんですが…」
そこまで言って、井ノ原さんが急に口籠もってしまう。
俺は二人に聞こえないように、ゴクリと唾を飲み込んだ。
暫く続いた沈黙…
先に堪えられなくなったのは、智君の方だった。