第23章 Deep Love
本当は智君を抱いたまま…そう思っていた。
でも、そんなことが叶うわけもなく、名残惜しい気持ちを胸に抱え、智君を車椅子に降した。
「ところで、あの…」
エレベーターを待つ間、俺はふと疑問に思っていたことを口にした。
「今日はどう言った用件で…?」
「ああ、それなら病室に戻ってからゆっくり…、あっ、来ましたよ」
エレベーターの扉が開き、乗り込む。
一言も発することなく、俺達を乗せたエレベーターが下降して行く。
やがてエレベーターが目的の階で止まると、また井ノ原さんが智君を乗せた車椅子を押した。
智君の病室は、隔離とまではいかないが、一般の入院患者とは、少し離れた場所にある。
当然擦れ違う人も少ない。
俺は人気が少ないのを見計らって、こっそり智君の手を握った。
最初は驚いた様に顔を上げた智君だったが、暫くすると少しだけ綻ばせた顔を俺に向けた。
病室に着くと、いつもと雰囲気が違っていることに気付く。
ああ、そうか…
いつもなら警備に立っている筈の刑務官が二人なのに、一人しかいない。
しかもそれは長野さんで…
「どうして長野さんが…?」
「理由は井ノ原医務官に聞いて下さい」
軽く頭を下げると、長野さんは井ノ原さんと顔を見合わせ、小さく笑った。