第23章 Deep Love
茂さんの店と事務所の入ったビルは、百メートルもない距離にある。
俺は足早に事務所に向かって足を進めた。
「馬鹿かお前は! 戻って来るんじゃないよ」
「いや、だけど仕事…」
それに鞄だって事務所のデスクに置いたままだし…
「はぁ…」
電話の向こうで岡田がいつになく深いため息をつく。
「分かった。とりあえず駐車場に迎え。話はそれからだ」
そう言ったきり、一方的に切られた電話。
俺はビルに着く少し手前で足を止め、暗くなったスマホの画面を眺めた。
”駐車場に迎え”
岡田は確かにそう言った。
俺は踵を返すと、数メートル戻った角を曲がった。
そこに事務所が借りている駐車場があって、俺の車もそこに停めてある。
駐車場に着いた俺は、ボンネットに腰を預けて岡田の到着を待つ間、どうにも落ち着かなくて、コートのポケットに突っ込んだ左手を出しては、何度も時計を確認した。
このままだと遅刻になるじゃないか…
そう思った時だった、角を曲がって小走りに駆け寄って来る岡田の姿が見えた。
その手には…俺の鞄?
けっこうな重さがあるにも関わらず、軽々と持っているように見えるのは、やはり普段から身体を鍛えているからなんだろうな。
「よぉ、待たせたな」
涼しい顔をして岡田が、ヒョイと空いた手を俺に向かって上げた。