第23章 Deep Love
コーヒーを飲み終え、丁度店を出ようとした、その時だった。
俺の手の中でスマホがブルブルと震え出した。
電話の相手は岡田だ。
こんな時間に掛けてくるなんて、急ぎの用事だろうか…
そう思った俺は、迷うことなくスマホの画面をタップして、耳に宛てた。
「もしもし、岡田どうし…」
「お前は馬鹿か?」
言いかけた俺の言葉に、被せるように返ってきた岡田の一言に、俺は少しだけムッとする。
「いきなり馬鹿とはなんだ、馬鹿とは…」
カウンターで他の客に自慢のコーヒーを振舞う茂さんに、軽く頭を下げ店を出る。
吹き付ける風の冷たさに、一瞬身震いをして、足を事務所に向けた。
「馬鹿は馬鹿だから馬鹿だと言っているんだ」
「用がないなら切るぞ…」
流石の俺も、こうも馬鹿馬鹿言われれば、正直面白くはない。
「お前なあ、長瀬さんから電話貰ったんだろ?」
「まあな…。でもそれがどうし…」
「大野のトコ、行け。井ノ原さんには俺から話をつけてある」
岡田が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
どれだけ考えても返す言葉が見つからず、スマホを耳に宛てたまま、俺は止めていた足を事務所に向かって一歩踏み出した。