第23章 Deep Love
智君の医療刑務所への送致が決まったと、長瀬さんから連絡を受けたのは、移送される前日のことだった。
俺はいても立ってもいられない気持ちを抱えたまま、普段通り事務所に向かった。
時間よりも少しだけ早く事務所に着いた俺は、誰もいない事務所の自分のデスクに資料の詰まった鞄を置くと、スマホと財布だけを手に事務所を出た。
行先は決まっている、茂さんの店だ。
たまに早く出所した時は、大抵そうして時間を潰している。
店のドアを開けると、ドアチャイムの音と共に、コーヒーの子叔母しい香りが俺を出迎えてくれた。
「いらっしゃい、今朝も早いなぁ?」
カウンターでミルを操りながら、茂さんが俺に向かって穏やかな笑顔を向ける。
「ええ、茂さんのコーヒーが恋しくて…」
そんな冗談が言えるようになった自分に、正直戸惑う。
カウンターの椅子を引き、そこに腰を降ろす。
一人の時は大抵ここが俺の定位置だ。
「最近何かいいことでもあったん?」
茂さんがおしぼりを差し出しながら、少しだけニヤリと笑う。
「特に何も…?」
「そうか? 最近えらい穏やかな顔してるから、てっきり…」
穏やかな顔、か…
もしそう見えたのなら、それはきっと智君の中に、まだ俺の居場所があることを確認できたから、なのかもしれないな…。