第21章 Prayer
「疲れてんじゃないのか?」
定時になり、いそいそと帰り支度を始めた俺に、岡田が言った。
「そんなことないよ…」
疲れていないわけじゃなかった。
実際、家と仕事…そして病院との往復を繰り返す日々は、確実に俺の身体に負担をかけていた。
でも、ここで弱音を吐くわけにいかなかった。
「心配すんな。俺、これでも体力には自信あんだぜ?」
無理矢理おどけて見せる。
「そうか? お前がそう言うなら、そうなんだろうが…」
納得の行かない様子の岡田の肩を一つ叩き、俺はズッシリと重い鞄を手にした。
「じゃ、俺、急ぐから…お先…」
所長や事務員に挨拶を済ませ、足早に事務所を後にした。
病院までは車でも優に30分はかかる。
俺は車に乗り込むと、エンジンが温まるまでの間、スマホの履歴に目を通した。
「…またか」
ここ数日、決まってかかってくる電話。
親父からだ。
どうせ要件は決まっている。
どこそこのご令嬢との見合い話か、若しくはどこからか仕入れた情報をネタに、俺を智君から引き離そうとしているのか…
どちらにせよ、俺にとっては出来ることなら今は関わりたくない話であることは間違いない。
俺は深い溜息を一つ落として、スマホを助手席のシートに放ると、アクセルを踏み込んだ。