第21章 Prayer
「櫻井さん、あなたの声が届いたんですよ」
井ノ原医務官が、俺の両肩を掴んで激しく揺さぶる。
それでも尚状況の飲み込めない俺は、瞬きをすることすら忘れて、ただ忙しなく動き回る医師と看護師の姿を追い続けていた。
やがて不規則だった機械音は規則的に鳴り始める。
そして描き始めた綺麗な波形…
「心拍再開、自発呼吸確認出来ました!」
瞬間俺は天を仰いだ。
見開いた瞳から、一筋涙が頬を伝った。
「あなたは確か…」
一通りの処置を終えた医師が、井ノ原医務官の前に立った。
「私は医務官をしていまして…」
「そうですか。まあ、お分かりだとは思いますが、このまま意識が戻らない場合は植物状態になる可能性は大いに考えられます。もし仮に意識が戻ったとしても、脳へのダメージが大きければ重度の障害が残ることもありますので…」
それでも構わない…
智君が生きていてさえくれれば、それだけで…
「詳しいことは検査をしてみないことには何とも言えませんがね」
そう言って医師は看護師を引き連れ、病室を出て行った。
さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った病室に、智君が生きている証とも言える機械音が響いていた。