第21章 Prayer
「櫻井さん、そろそろ…」
静かにドアが開き、井ノ原医務官が声をかける。
”もう少しだけ”
すぐそこまで出かかった言葉を、俺は飲み込んだ。
「私の口からお伝えするのもなんですが、後のことは追って連絡がいくと思いますので…」
刑務所関係者とはいえ、一介の医務官である立場上、管轄外であることには違いないのだろう、井ノ原医務官は何とも申し訳なさそうに続く言葉を濁らせた。
開かれたドアの向こうからは、侑李の啜り泣く声が聞こえていた。
俺は未だ離せずにいる智君の手を握ったまま、そっと冷えた唇にキスをした。
何度となく触れた智君の唇の形を、俺の中に焼き付けるように…
「愛してる」
決して届くことのない言葉を、耳元に囁きかける。
「これからもずっと君だけだから…」
握っていた左手の薬指の付け根に、誓いの意味を込めてキスを落としたその時だった…
ピッ…と、小さな機械音を響かせた。
と、同時にカウントを始める数字…
フラットだったラインが、時折見せる波形…
「…まさか…!」
井ノ原医務官が慌てた様子でコールボタンを押した。
程なくして駆け込んできた医師と看護師が、俺を押し退けるようにしてベッドを取り囲んだ。
一体何が起きているんだ?
突然慌ただしくなった病室で、俺はただただ茫然として立ち尽くしていた。