第21章 Prayer
「あの日…、櫻井さん達がここへいらしてから、一週ほど、でしたか…。相葉の件が彼の耳に…」
いずれは…
そう思っていたのに…
あれ程智君の耳には入れないよ頼み込んだのに…
「…そう、ですか…」
最早井ノ原医務官を責める気力すら、俺には残っていなかった。
俺は智君の手を握りしめたまま、ガックリと肩を落としていた。
「智兄ちゃん!」
飛び込んで来たのは、侑李だった。
その顔はもう涙に濡れていて、長瀬さんの支えがなければ立っていられない程、憔悴仕切っていた。
「どうしてこんなことに…?」
長瀬さんが口元を手で抑えた。
“どうして…”か…
そんなの俺が聞きたいよ…
なあ、誰か俺に教えてくれよ…
「あの…少しだけ…」
叶わぬ願いかもしれない。
でも…
「少しだけでいいんだ。二人きりにしてくれませんか…?」
フラフラと立ち上がり、智君の寝顔を見下ろす。
「それは構いませんが…でも、そんなに時間は…」
「分かってます。ほんの数分でいいんです。今だけ…」
「分かりました。どうぞ悔いの残らないように…」
井ノ原医務官の手が、俺の肩に載せられた。
その手は小刻みに震えていた。
「ありがとうございます…」
俺は井ノ原医務官を見ることなく、頭を下げた。