第19章 Showing
開かれたのは結についての調書。
「これが何か?」
俺はろくに目を向けることなく答えた。
「分かりませんか? 彼…相葉雅紀は、大野さんの事件の関係者なんですよ?」
俺はそう言われて漸く”勿体ない”と言った深山さんの真意を理解した。
「やっと思い出したか?」
岡田がニヤリと笑う。
「あぁ、やっと、な?」
何度も読み返した筈の資料だ。
決して見落としていたわけじゃない。
それなのに…
理由は簡単だ。
この数日、俺の頭の大半を占めていたのは智君のことだけだった。
”周りが見えていない”そう言われたって、反論することなんて出来やしない。
「それにしてもまさか…な…」
俺はまだ湯気を立てるコーヒーを、一気に喉に流し込んだ。
そしてファイルを手に取ると、頭から目を通した。
”相葉雅紀”…両親の離婚以前は”伊藤雅紀”
離婚後、雅紀は父親の元を離れ、母親と暮らしていた。
雅紀が高校を卒業する直前、母親の死をきっかけに父親の元に戻ったが、姓は母方の姓である“相葉”を名乗っている。
父親の元に戻った雅紀は、そこで初めて父親が施設から引き取った義理の妹、当時13歳の結に出会うことになる。
雅紀が結の天真爛漫な明るさに、心惹かれるまで、そう大して時間はかからなかった。