第19章 Showing
”相葉雅紀”
その名前を聞いた瞬間、俺の胸の中に怒りにも似た感情が沸き起こった。
彼が智君を…
彼が智君の身体だけでなく、心まで傷つけた…
そう思ったら、胸の中に渦巻き始めた醜い感情を抑えることが出来なかった。
「死んで当然だ」
俺は電話越しの長野刑務官に言い放った。
でも長野刑務官は言ったんだ…
「自殺だったんです」と…
智君を傷つけたことによって、彼は精神に異常を来たし、送致された医療刑務所内で、自殺を図ったとのことだった。
俺には関係ない…
彼がどこで死のうが、俺の知ったことではない…
俺にとっては、憎むべき相手がこの世から消えた…
それだけのこと、そう思っていた。
でも、もしもそのことを智君が知ってしまったら?
俺は最悪の状況を想像して、身体が震えるのを感じた。
幸いなことに長野刑務官の話では、彼の死は智君の耳には入っていないとのことだった。
だけどそれだって時間の問題だ。
彼の死を知ったら、智君は確実に自分を責めるだろう…
そして責めに責め抜いた挙句、智君は…
元々生きることに執着のない智君だから、迷うことなく自分を殺すだろう。
駄目だ…、
それだけは絶対に避けなければ…
彼が死んだことを、智君の耳には入れないよう、長野刑務官と約束を交わして、俺は電話を切った。