第18章 Fallen Ⅱ
パクパクと動くだけの俺の口元に、井ノ原が耳を寄せた。
(翔は? 翔がここにいた筈だ…)
尚も口を動かし続ける俺を、井ノ原が見下ろす。
「お前まさか…?」
そう言った井ノ原の顔は、いつになく険しい顔だった。
「井ノ原医務官?」
長野が目深に被った帽子を取り、井ノ原の顔を覗き込んだ。
「お前、声、出ないのか?」
「まさか、そんなこと…。冗談だろ?」
長野の顔が、どんどん血の色を失くしていく。
「お前、ふざけてんだよな? そうだろ?」
「落ち着いてください、長野刑務官」
取り乱す長野を、井ノ原が至って冷静な口調で宥める。
「主治医の見解を聞いてみないと正確な判断は出来ませんが、多分精神的なショックが大きかったことが原因じゃないかと…」
精神的なショック…?
俺が?
マジかよ…
「お前、どうして自分がここにいるか、分かってるか?」
井ノ原の言葉に、俺は首を横に振る。
「そうだよな…お前には余程堪えたんだろうな…」
なんだよそれ…
俺に一体何があった?
教えてくれよ…
俺は縋る思いで井ノ原のシャツの裾を握った。