第17章 Fallen
智君に会える…
そう思っただけで身体が震え、足はまるで鉛のように重い。
俺はそれを悟られないよう、両手を固く結んだ。
「行って来い、櫻井」
岡田が俺の背中を押す。
俺はその勢いで漸く一歩を踏み出すことが出来た。
「会わせて貰えますか? 智君に…」
井ノ原医務官の顔がフッと和らぐ。
「どうぞ?」
長野刑務官が病室のドアを開く。
「警備上、私達が同席することになりますが、宜しいでしょうか?」
「勿論です」
智君に会えるのなら…
「では、こちらへ…」
俺は開かれたドアの向こう側へ、一歩足を踏み入れた。
真っ白な壁に囲まれた病室の片隅で、降り注ぐ陽射しを浴びて、智君は眠っていた。
すっかり細くなってしまった腕には、命を繋ぐための管が幾つもの着けられている。
「触れても…?」
部屋の隅に立つ二人を振り返る。
二人は俺に向かってゆっくりと頷いてみせた。
俺はそっと手を伸ばし、長い指先に触れてみる。
瞬間、触れた指先から伝わってくる智君の体温。
「智…君…? 起きて? ねぇ、智君…」
俺は両手で智君の手を包み込むと、それを頬に宛てた。
いつの間にか溢れ出した涙が、頬を伝い、智君の手を濡らした。