第17章 Fallen
「智君、俺だよ? 翔だよ? 分かる?」
硬く瞼を閉ざしたままの智君に語りかける。
応えは帰って来ない。
でも、それでも良かった。
こうして智君に触れられるだけで…
それだけで良かった。
「ねぇ、智君? 君は怒るかもしれないけど、俺は戦うよ? 君を必ず救い出してみせるから…だから…」
もう少しだけ待ってて?
「長瀬刑務官、井ノ原医務官、彼を…智君をお願いします。もうこれ以上彼を傷付けたくない」
俺は椅子から立ち上がり、二人に向かって頭を深々と下げた。
「分かりました。私達に出来ることなら…」
「宜しくお願いします」
俺はもう一度二人に頭を下げると、病室を出た。
そして病室の前のベンチで足を組んで座る岡田の肩を叩いた。
「岡田、行くぞ」
「もういいのか?」
岡田が俺を見上げる。
「あぁ…今は、な?」
「そうか…」
ベンチから腰を上げ、すっかり皺になってしまったズボンを手で払った。
「とりあえず一旦自宅に戻ってシャワーしてからだな? 覚悟しろよ、櫻井弁護士?」
肩にジャケットを引っかけ、岡田が俺の肩を叩く。
「休んだ分取り返して貰うからな?」
とても冗談とは思えない言葉に、俺は肩を竦めて見せた。
「なぁ、岡田。俺、いつか必ず証言台に立つよ。だから…」
岡田は何も言わず、ただ頷いてくれた。
智君、俺、戦うから…
ボロボロになったっていいさ…
傷ついたっていい…
俺は君のために戦うよ…
『Fallen』完