第17章 Fallen
「辛いだろうが、ここは長瀬さんと侑李君に任せて、俺達は俺達のすべきことをしないか?」
長瀬さんは日増しに憔悴して行く俺の様子を、見るに耐えなかったんだろう。
付き添いを変わると申し出てくれた。
俺はそれを受けることにした。
本音を言ってしまえば、ほんの僅かな時間も、智君の傍を離れたくはなかった。
でも、そんなことを言ってられる状況じゃないことを、俺自身十分すぎる程分かっていた。
有給とは言え、俺が休んでいる間の仕事は、溜まって行く一方だった。
「長瀬さん、何かあったらすぐに…」
言いかけたその時、見覚えのある顔が俺達に向かって頭を下げた。
私服を着ているからなのか、一瞬誰かと思ったが、それは井ノ原医務官と長野刑務官だった。
二人は警備を任された刑務官に軽く敬礼をし、入室の許可を受けると、俺に向き直った。
「警備の問題上、一人しか許可出来ませんが、櫻井さん、彼に会われますか?」
思ってもいなかった申し出に、俺の心が激しく動揺する。
「い、いいんですか? あの、本当に…」
動揺を隠し切れない俺に向かって、井ノ原医務官が優しく微笑みかける。
「主治医の許可は取ってあります。それにあなたに会うことで、彼の状態に変化が現れるかもしれない。これは医師としての“勘”のようなものですがね?」
そう言って井ノ原医務官は頭を指で突ついて見せた。