第17章 Fallen
ストレチャーが闇に吸い込まれて行くのを見送ると、漸く岡田が俺を解放した。
「取り乱して済まない…」
俺はそれだけを言うと、医師に向かって頭を下げた。
「乱暴なことをしてすいませんでした」
謝罪の言葉を述べる俺に、医師は一瞥をくれることもなく、術着の襟を直した。
「あの…ご家族の方は…」
回りを見回し、医師がゆったりとした口調で言う。
「彼に家族はいません」
長野さんが答える。
「でも身元引受人の方なら…」
そう言って向けた視線の先には、壁に長身の背中を凭せ掛け、胸の前で腕を組んだ長瀬さんだった。
「あっ、ああ、私です。私が彼の身元引受人の長瀬です」
長瀬さんには、初めて侑李を尋ねた直後に、身寄りのない智君の身元引受人になって貰えないかと、岡田が頼み込んでいた。
長瀬さんはその申し出を、保護司の立場から二つ返事で引き受けてくれた。
長瀬さんがその長身を小さくして医師に頭を下げる。
「そうですか。でわ、簡単に説明しますが、手術は無事終わりました。後は術後の経過を見て見ないと何とも言えないんですが、ただ…」
そこまで言って医師の顔が一瞬曇る。
「ただ、何です? 手術は成功したんですよね?」
「えぇ、手術は何の問題もなく済みましたが、何しろドライバーの刺さっていた場所があまり宜しくなくてですね…」
途端に口籠る医師に、その場にいた誰もが息を呑んだ。