第17章 Fallen
その場にいる誰もが声を発することのない、重苦しい時間だけが流れた。
廊下の向こうから聞こえた足音に、視線を向ける。
薄闇の向こうからこちらに向かって歩いてくる人影。
一人は刑務官らしき人と、もう一人は白衣姿の男。
二人は迷うことなく手術室の前まで歩み寄ると、警備中の刑務官に声をかけた。
「まだ終わらないのか?」
白衣姿の男が苛立ちを隠せないといった様子で床を蹴る。
そして俺達の存在に気付くと、その頭を少しだけ下げて見せた。
「あの、あなた方は…」
岡田が二人に向かって声をかける。
「私は刑務官の長野です。で、こっちが医務官の井ノ原先生です」
およそ刑務官らしくないその人は、被っていた帽子を取ると、俺達に向かって深々と頭を下げた。
何のために?
それまで抑えていたモノが、沸々と湧き上がってくる。
「あのっ…!」
俺は思わず立ち上がっていた。
「一体どうしてこんなことに? 誰がこんなことを? なんでっ…!」
押さえきれない感情が、堰を切ったように溢れてくる。
「櫻井、落ち着け」
今にも掴みかかろうとする俺を、岡田が抑え込む。
「失礼ですが、あなた方は彼の…」
長野刑務官が申し訳なさそうに言った。