第17章 Fallen
エレベーターを使ってエントランスに降りると、俺の手の中でスマホが震えた。
電話の相手は確認しなくても分かる。
岡田だ。
岡田が到着を知らせる電話を寄越したんだ。
俺は電話に出ることなく、エントランスを抜けると、路肩に停めた岡田の車に無言で乗り込んだ。
岡田も俺を気遣ってか、言葉を発することはなかった。
漸く俺が口を開いたのは、車が赤信号で停車した時だった。
「…で、どんな状況なの?」
自分でも驚くほど、酷く冷静だった。
「さっき長瀬さんから連絡を貰った時点では、手術室に運ばれた直後だったらしいが…」
岡田が視線をフロントガラスに向けたまま言う。
「…そう」
命に別状は…
一体智君の身に何が起きたの?
智君がどうして…
聞きたい言葉は溢れてくるのに、冷静になろうとすればするほど、言葉がどんどん胸の奥に飲み込まれていく。
まるで全ての感情が麻痺してしまったような…そんな感覚だった。
信号が青に変わり、ゆっくりとしたスピードで車が走り出した瞬間、岡田の手が俺の手を握った。
『大丈夫だから…』
物言わぬ岡田の手が、俺にそう言っているようだった。
俺はその時になって漸く、自分の手が震えていることに気付いた。