第17章 Fallen
智君が怪我をして病院に搬送されたと連絡を受けたのは、帰宅してすぐのことだった。
リビングのソファーにずっしりと重い鞄とコートを放り投げ、ネクタイを緩めた瞬間、ジャケットの胸ポケットでスマホが震えた。
表示されていたのは岡田の名前。
時刻はとっくに九時を過ぎている。
申し送りでも忘れたのかと、俺はスマホをタップした。
聞こえてきたのは切迫した岡田の声だった。
「落ち着いて聞いてくれ」
電話越しでも分かる程震える岡田の声に、俺はただ事ではないことを予感した。
そしてその予感は見事なまでに的中した。
「大野が刺されて病院に緊急搬送されたらしい」
と…
目の前がグニャリと歪み、スマホを持つ手が震えた。
「ど…どこの病院…?」
それだけ聞くのがやっとだった。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ…」
大丈夫なんかじゃない…
でも、どうしたらいいのか…
分からない…
「いいか、櫻井。あと五分程で下に着く。着き次第電話するから、それまでそこを動くなよ? 分かったな?」
岡田の言葉すら、俺の耳には入って来ない。
ただ一つ分かるのは、岡田が俺を迎えに来る、それだけだった。
俺は放心した状態のまま、ついさっき脱いだばかりのコートを羽織り、部屋を出た。