第16章 Limit
ノロノロと立ち上がり、覚束ない足取りで鉄の扉に歩を進める。
…が、足首を掴まれ、鉄の扉の一歩手前で引き倒されてしまう。
「逃がさないよ?」
マサキがニヤリと笑う。
その目には…涙?
「ねぇ、サトシ? 教えて? サトシは結のこと、本当はどう思ってたの? ちゃんと好きだった? ちゃんと…」
マサキの頬を涙が幾筋も伝う。
「マサキ、お前、もしかして…」
結のことを…?
「あぁ、そうだよ、俺は結を愛してた。それなのにアイツは…」
二宮から聞かされた話が脳裏を過る。
『義妹をレイプしていた実の父親を…』
あの話は“嘘”なんかじゃなかったんだ…
俺の全身を恐怖が震えとなって駆け抜けた。
“結を愛してた”と…
そう言えばマサキの怒りは鎮まるのだろうか?
いや、そうじゃない。
マサキの怒りは、例え俺を殺したところで、鎮まることはないだろう。
どうすればいい?
なぁ、翔…
俺はどうすれば…
その時だった、鉄の扉の向から、規則正しい足音が聞こえてきた。
作業を終えた受刑者達が戻ってきた。
助かった…
俺は心の中で安堵の溜息を零した。
ほんの一瞬の気の緩みだった。
「うあぁぁぁぁぁっ!」
マサキの叫びと共に、振り降ろされたドライバーは、俺の右太腿に突き立てられた。