第16章 Limit
「井ノ原医務官には俺から言っておくから、明日にでもちゃんと見て貰えよ?」
雑居棟に戻った俺の肩を、長野が叩き、マサキに替えのガーゼを手渡した。
「別に必要ねぇよ…。大したことないし…」
仄かに熱を持った頬は痛むが、耐えられない程ではない。
「まぁ、一応な?」
長野が言って房の鍵を開けた。
「じゃ、ゆっくり休めよ」
「あぁ、そうするよ」
俺達の目の前で鉄の扉が閉まる。
松本と二宮が作業を終えて戻ってくるまで、この扉が開かれることはない。
途端に不安が込み上げる。
俺はそれを誤魔化すように、息を深く吸い込んだ。
「とりあえず着替えたら? 服、血が付いてる」
言われて作業服の袖に視線を落とすと、点々と赤い染みが付いていた。
「そう、だな…」
マサキに背を向け、ロッカーを開ける。
汚れてしまった上衣を脱ぎ、新しい上衣をロッカーから取り出す。
その時、ロッカーの奥に仕舞ってあった封筒が、パサリと床に落ちた。
誕生日当日に翔から届いた手紙だ。
俺は上衣を肩に引っ搔けたまま、腰を屈めてその封筒を拾い上げた。
そして一時、その封筒を胸にギュッと握り締めた。
翔…
近くて遠い人の名前を心の中で呼ぶ。
どんなに呼んだって答えてくれやしないのに…