第16章 Limit
マサキと長野、二人に付き添われ医務室に入ると、そこに井ノ原の姿はなかった。
「アレ、井ノ原医務官いないのか…。仕方ないなぁ…」
長野はそう言って溜息を一つ落とした。
「そこ座って?」
本来井ノ原が座るべき椅子に、長野が腰を下ろし、小さな丸椅子を指さした。
「ちょっと傷口見せて?」
訳もわからず、言われた通り丸椅子に座った俺に、長野が言う。
俺が傷口を押さえていた手を外すと、長野がそこに貼り付いていたハンカチを捲った。
「痛っ…」
引き攣れる様な痛みが走った。
「縫う程じゃないけど、けっこう深いぞ、コレ…」
「アンタに分かんのかよ?」
「俺、こう見えても実家は医者だからな。ついでに言うと、医師免許は取得済みだ」
意外な一面を覗かせる長野に、俺はマサキと顔を見合わせた。
実際、長野の手際は良く、刑務官にしておくのは勿体無いと思える程だった。
消毒を終え、俺の頬にガーゼが宛てられた。
「大袈裟だよ…」
ガーゼの大きさに文句を言う俺に、長野がクスリと笑う。
「大袈裟なもんか。顔は大事たぞ?」
別に男だし、顔なんてどうだっていい…
寧ろ箔が付くってもんだ。
「よし、今日の作業は休みにして貰ったから、お前ら房に戻って少し休め」
降って湧いた余暇に、喜びを隠しきれないマサキとは逆に、俺はマサキと二人になることに、不安を感じた。