第16章 Limit
俺はベンチに二宮を残したまま、グラウンドに向かって走り出した。
二宮の話があまりにも衝撃的過ぎて、どう受け止めて良いのか、正直分からない。
それに、それが事実だとも…出来ることなら思いたくはない。
俺は列の最後尾に並ぶと、ゆったりとした足取りでコチラに向かって歩いて来る二宮に目を向けた。
その顔はただでさえ色白の肌が、すっかり色を無くしてしまっている。
「ねぇ、アイツと何喋ってたの? それにジュンとも…」
丁度隣り合わせたマサキが、俺の耳元で声を潜めて言う。
「何でもねぇよ…」
マサキの問いかけに、顔を見ることなく、そう答えるのが精一杯だった。
「5617番! 走れ!」
刑務官の怒号がグラウンドに響く。
でも、それすらも意に介さない様子で、二宮はその歩を早めることはしない。
漸く二宮が俺の後ろに並んだ頃には、他の作業場へ向かう列が進み始めていた。
「遅れてすいませんねぇ」
いつもの飄々とした物言いに、受刑者達からの野次が飛ぶどころか、笑いが零れる。
警務作業の時間がが少しでも短縮出来るんであれば、理由はなんだっていい、ってわけだ。
「静かにしないか! これで全員揃ったな? よし、前へ進め!」
刑務官の号令と共に、列が規則正しい足音を響かせながら前進を始めた。