第16章 Limit
自由時間の終了を知らせる鐘が鳴った。
グラウンドで野球に興じていた受刑者達が、それぞれの作業場毎に列を作った。
「行かねぇとな…」
俺はベンチから腰を上げた。
「…殺しだよ」
まだベンチに座ったままの二宮が、掠れた声で言った。
「えっ…? 今、何て…?」
聞き取れなかったわけじゃない。
「冗談…だろ?」
あの、マサキが…?
殺し…?
「冗談なんかじゃありませんよ。アイツの妹、本当の妹じゃないんですよ。施設から引き取られた、所謂養女、ってやつでね?」
結が施設から引き取られた養女?
そんな話は一度だって聞いていない。
「でさ、アイツの親父、その妹をさ…」
そこまで言って二宮は声を詰まらせた。
そしてそれまでベンチに貼り付いて離れなかった重い腰を上げた。
「妹をレイプしてたらしいんだよ。それも一度や二度じゃなくてね? それを知ったアイツは、親父を包丁で滅多刺しに…」
二宮の声がどんどんと消え入りそうに小さく、掠れていくのに、俺は耐えきれず…
「もういい… 分かったから…もう…」
マサキの過去を知りたいと思ったのは、誰でもないこの俺自身だ。
でもまさかそんな過去がマサキにあったなんて…
「私が話したって言わないで下さいよ? 私だって本当はこんな話、出来ればしたくなかったんですから…」
「ああ、分かってるよ」