第16章 Limit
警務作業中の合間に挟まれる30分の休憩時間、グラウンドの片隅のベンチに座る俺に、松本が声をかけてきた。
「ちょっといいか?」
松本はグルリと周囲を見回すと、俺の隣に腰を下ろした。
「お前、アイツとはどうなんだ?」
アイツ?
「ああ、マサキのことか? なんも変わんねぇよ」
「そっか…、お前がそう言うなら、俺の思い違いか…」
「なんだよ、思い違いって…」
松本の、いつになく含みのある物言いに、俺はそれまで俯かせていた顔を上げた。
「いや、アイツ最近おかしくねぇか?」
言われて俺はハッとする。
マサキの変化に気付いていたのは、俺だけじゃなかった。
「その顔見る限り、お前も感じてんだろ? アイツの違和感」
松本の言う通りだった。
俺はマサキに違和感を感じている。
「いつからだ…」
視線をグラウンドで野球に興じるマサキに向けたまま、松本が感情を抑えた声で言う。
「多分…俺らが独房から戻った直後…からかな…」
「やっぱりか…」
松本が深い溜息と共に、その首をガクンと項垂れた。
俺達が雑居房へ戻った時、マサキは面会のためにその場にはいなかった。
そこで俺は初めて知った。
マサキが結の兄だと言う事を…
そして面会から戻って来た時、マサキの様子が明らかにおかしいことにも、俺は気付いていた。