第16章 Limit
「珍しいね、サトシに手紙なんて」
刑務官から渡された封筒を握り締めたまま、動けずにいる俺の肩に、マサキの長い腕が回される。
「誰から? もしかして、シャバに残して来た恋人から?」
「あ、ああ…まあな…」
「ふ〜ん、そう…」
俺を覗き込むマサキの表情が一瞬曇る。
「読まないの?」
俺の見間違い…だったんだろうか?
そう言ったマサキの顔は、いつもの明るい笑顔だった。
「読むよ…読むからさ、ちょっと離れてろよ…」
俺の首に巻き付いて離れないマサキを押しやり、俺は壁際に置かれた長机に向かった。
封筒から手紙を出す手が震えた。
心臓がぶっ壊れるんじゃないかってくらい、激しく脈打つ。
薄いブルーの便箋を開くと、そこにはやはり『検閲済み』の赤い判が押されている。
でもそれよりも何よりも、俺の視界に飛び込んできたのは、決して綺麗ではない、癖のある文字。
翔の字だ…
間違いない。
『智君、なかなか会いに行けなくてごめん』
『もうすぐ君の誕生日だね?』
壁にかけられたカレンダーに目を向ける。
11月26日…
今日って、俺の誕生日…
『今年は祝って上げられなくてごめんね?』
『おめでとう』
『こんな手紙でしか伝えられなくて、ごめん…』
ばか…
謝ってばっかいんじゃねぇよ…
俺の目から零れた雫は、薄いブルーの便箋に濃い青の染みを作った。