第3章 Nightmare
「ごちそうさまでした…」
手を合わせ、冷たい鉄の扉に向かって頭を下げた。
空になった食器を乗せたトレーを差込口から外に出すと、消灯までの時間に布団を敷き、就寝の準備をする。
薄っぺらな布団を広げると、湿った匂いが狭い部屋に充満する。
黴(かび)た匂いが鼻を衝く。
与えられた揃いの寝巻に着替え、簡単な洗面を済ませると、低い衝立で覆われただけの便器で用を足す。
その時不意に眩暈にも似た感覚に襲われた。
グラグラと揺れる視界に足が縺れる。
「なんだ…コレ…」
額から噴き出る冷たい汗を寝巻の袖で拭い、壁を伝って何とか足を進めようとするけど…
立っていることも出来ず、硬いフローリングの床に膝から身体が崩れて行く。
冷たい床に倒れ込んだ身体を起こそうともがいた指先は、フローリングの上を虚しく滑る。
「…クッ…」
見上げた先に俺を見下ろす月が浮かぶ。
翔、そこにいるんだろ…?
助けてくれよ…
重くなる瞼に逆らえず、狭まる視界に翔の姿を思い浮かべる。
翔…!
瞼を閉じると、フワフワと漂うような感覚に、意識が徐々に奪われる。
固く閉じた瞳から涙が零れた。
その瞬間、俺の意識はプチッと音を立てて途切れた。