第15章 Urge
父が智君の事を快く思っていないことは、子供の頃から知っていた。
智君を貶めるような言葉だって、一度や二度じゃない…何度も繰り返し聞かされてきた。
親がないから…
施設育ちだから…
子供の俺にはそんなことは関係なかった。
だって、智君自身が望んで、そうなったわけじゃないから。
その想いは今だって変わらない。
「でも、あの事件はまだ…」
俺の中では何一つ解決していない。
「お前はまだそんなにことを言っているのか? あの子が、ヤッタと裏付ける証拠だって提出されている筈だ。アレが何よりの証拠じゃないか」
決定的な証拠…
被害者である女性の体内から検出されたと言う、体液の鑑定した物…
つまり“DNA鑑定”のことを言っているのか?
「アレは…」
言いかけて俺はその先の言葉を飲み込んだ。
きっと父に“アレは偽物だ”と言った所で、取り合ってくれる筈もない。
「まあ、何でもいいが、あの子とは今後一切関わるんじゃない。あの子の弁護も辞めるんだ。いいな」
いつだってそうだ。
父さんは俺の言葉に耳を傾けようとはしない。
俺が父さんと同じ弁護士になった時でさえ、一緒に喜んでくれることはなかった。
父さんにとって俺は一体何なの?
父さんの体裁を良くするためだけの道具なの?
一方的に切れてしまった電話を、俺は助手席シートに投げつけた。