第15章 Urge
苛立った気持ちを引き連れたまま、俺は車を走らせた。
途中何度かスマホが震えたが、確認をしただけで、かけ直すことも、出ることもしなかった。
電話を掛けてきたのが岡田だったからだ。
俺は事務所近くのコインパーキングに車を停めると、ほこで漸くスマホを手にした。
『茂さんの店で待ってる』
そう一言だけメールを送った。
茂さんの店の扉を開くと、いつもと変わらないコーヒーの香りと、茂さんの笑顔が俺を出迎えてくれた。
心に深く刺さった棘が、一つずつ抜け落ちて行く、そんな気がした。
「アレ、今日は珍しいね?」
スーツ姿じゃない俺を見て、茂さんが目を丸くした。
「今日は体調悪くて事務所休んじゃったんです」
ここには所長もたまに来ることがあるから、一応辻褄だけは合わせて置かないと、後々面倒な事にもなり兼ねない。
「そうだったんやね? で、もう大丈夫なん?」
「ええ、まぁ…。大分良くは…」
これ以上言ったらボロが出る。
俺は足早にいつもの定位置に腰を下ろした。
「いつもので良かった?」
はい、とだけ返すと、俺は手に持ったスマホに視線を落とした。
そこには『今から事務所出る』とメッセージを知らせる表示があった。
そらから程なくして、店のチャイムが鳴り、聞き慣れた靴音が俺に向かって近付いてきた。
「お待たせ。あ、茂さん、いつものね?」
スーツ姿の岡田だった。
『Urge』完