第15章 Urge
仕事の時とは違う面倒な手続きに、若干の苛立ちを感じつつも、面会室に通された時にはそれも消え去り、代わりに早鐘のように打ち付ける心臓の音が、俺の身体を緊張で強張らせた。
「暫くお待ちください」
案内の刑務官が退室し、俺はアクリル板を前にして、椅子に腰を降ろした。
小刻みに震える指先は、すっかり温度を無くし、冷たくなっていた。
暫くすると、一人の刑務官がアクリル板の向こう側の扉から入って来た。
ここでの会話を記録するためだ。
まるで永遠とも思える静寂が続いた。
漸く開いた扉の向こうに聞こえた、聞き覚えのある声。
それは紛れもなく智君の声だった。
俺は逸る気持ちを抑えきれず、勢い良く立ち上がった。
「智君…!」
「…翔…どうして…」
面会室に一歩足を踏み入れたきり、動けなくなってしまったのか、智君の目が宙を彷徨う。
「智君、会いたかった…」
俺の呼びかけに、智君の方がビクンと揺れた。
そして聞こえた小さな声…
「帰れ…。ここにはもう来んな…」
覚悟はしていた。
いや、していたつもりだ…
でもこうもはっきりと智君本人から拒絶の言葉を聞かされるとは…正直思ってもみなかった。
俺を見ることなく踵を返し、面会室を出ようとする智君を、刑務官の手が引き留めた。