第15章 Urge
「時間、くれないか?」
岡田が俺を見下ろす。
「そんなに長くは待てないよ?」
「分かってる。だから…少しだけ、俺に考える時間をくれないか?」
俺も、岡田もそうだが、他にもいくつかの裁判を抱えている。
智君の事件にばかり感けている余裕はない。
「分かった。でもお前にやれる時間は一晩だ。それでもいいか?」
たった一晩。
それでも俺にとっては、今の自分と向き合うには、充分な時間だ。
「所長には俺から言っとくから、今日はこのまま直帰しろ」
岡田が俺の肩を叩く。
「いや、でも公判資料が…」
頭に浮かぶのは、デスクの上に広げたままの資料の山。
「バカか、お前。置いてけ。今日だけは、他のこと全部忘れて、大野のことだけ考えろ。な?」
無言で頷いた俺の肩を、もう一度叩くと、岡田は伝票をテーブルの上に置いた。
「なに?」
訳が分からず見上げた俺に、岡田がニヤリと笑って見せる。
「お前の奢りな?」
「はあ? マジかよ…」
恨みがましく見上げた俺を、「当然だろ」と言わんばかりの岡田の満面の笑みが見下ろした。
「分かったよ。岡田先輩にはお世話になってますからね」
ちょっとした嫌味のつもりで言ったのに…
「分かってるねぇ。流石櫻井だ」
岡田はそう言って手をヒラヒラさせ、店を出て行った。