第14章 Dilemma
「あの人って、ほら”トッケー”だからさ。トッケーに逆らったらろくなことないしな? 誰も口出し出来ないんだわ…。」
特別警備隊…通称”トッケー”…
俺もその存在は耳にしたことがある。
屈強な刑務官ばかりで編成された組織だと…
坂本はその一人だったのか…
どうりで俺なんかが敵う相手じゃない筈だ。
「トッケーか…。成程な…」
「あっ、お前今の話…」
「分かってるよ。言わねぇよ。なぁ?」
言いながら松本が横目で俺を睨み付ける。
”お前もな…”
松本の目はそう言っていた。
俺はそれに無言で頷いた。
雑居棟に入ると、そこで長野の役目は終わりだ。
俺達の身柄は別の刑務官に引き渡され、そのまま浴場へと連れていかれた。
身体に染みついた垢を洗い流すためだ。
俺達に与えられた時間は15分。
当然だが、私語はおろか、お互いの身体に触れることなど許される筈もない。
何せ強面の刑務官の監視付きだからな。
松本と二人、並んで少し熱めのシャワーを浴びながら、頭の中で長野の言葉を巡らす。
不意に隣の松本に視線を向けると、真剣な表情で何かを考え込んでいる様子だった。
そして俺の視線に気が付くと、頬を赤らめて視線を逸らした。
散々俺の身体を甚振ってきたくせに…今更だ。