第14章 Dilemma
「で、ドライバーくすねた犯人は見つかったんかよ?」
雑居棟へ向かう途中、松本が前を歩く長野に問い詰める。
情報を聞き出すなら、長野のような、少々気弱な奴が打ってつけだ。
「それが見つからないんだよな…。犯人はおろか、ドライバーすら出て来やしねぇ…」
俺達の後ろを歩く刑務官には聞こえないよう伺いながら、最大限に声を落として長野が松本に耳打ちする。
そりゃそうだろう…
ドライバーをくすねたのがアイツなら、そんな簡単に見つかるような”へま”はしない筈だ。
「因みに聞くが、俺らの部屋調べたのは誰だ?」
松本が更に詰め寄る。
それに対して長野は躊躇することもなく、その軽い口を開いた。
「確か…坂本刑務官だったと思うけど…」
瞬間、俺と松本は顔を見合わせた。
「他には?」
俺が聞くと、長野は何かを思い出す様に視線を宙に巡らせた。
「坂本刑務官一人じゃなかったかな?」
そう言って長野が雑居棟の鍵を開けた。
「坂本のおっさん一人かよ? それおかしくねぇか?」
たかがドライバーが一本紛失しただけのこと…
それ程騒ぎ立てることでもない。
だがここは刑務所だ。
シャバでの甘っちょろい概念など、通用する筈がない。
たった一本のドライバーの紛失…
されが最悪の事態を招き兼ねないことだってある、ってわけだ。