第14章 Dilemma
「ゲホッ…ゴホッ…」
俺の手から解放された二宮が激しく咳き込みながらその場に蹲る。
「一体何なんですか…いきなり…勘弁して下さいよ…」
刑務官の手を借りながらフラフラと立ち上がった二宮が、首を摩りながら忌々しげに吐き捨て、空になったワゴンを手に、来た道を足早に戻って行った。
一瞬垣間見た二宮の表情は、心底驚いたような顔をしていた。
再び響いた錆びた音…
それと同時に俺はその場にズルズルと崩れ落ちた。
二宮の首を捩じり上げた両手が小刻みに震えていた。
どうしよう…
震え…止まんねぇ…
「感情的になってんじゃねぇよ…ったく…」
「…悪ぃ…つい…」
「ほら、飯食おうぜ? こんな豚の餌みたいな飯でも、食っとかねぇと保たねぇぞ?」
「あぁ…、そう、だな…」
松本が俺を落ち着かせようとしてくれているのが、その声色から分かった。
俺は俺は乱暴に置かれたトレーを引き寄せた。
「ホントだな…、豚の餌の方がましかもな…」
今まで見てきたどんな質素な食事よりも粗末な食事を前に、笑いが込み上げてくる。
それでも俺は両手を合わせ、頭を下げる。
一滴の水すら飲むことが出来なかった子供の頃を想えば、食わせて貰えるでけでもありがたいと思えるから。