第14章 Dilemma
カリカリカリ・・・
再び聞こえ始めた松本の爪を嚙む音が、ここにはある筈の無い、時を刻む秒針の音のように響いた。
きっと松本の中で答えは出ている…
そう思った。
結局松本からは何の答えも貰えないまま時間が過ぎた。
俺がもしも松本の立場だったら…
そう簡単に答えが出せないだろうと思うと、無理に結論を急がせる気には到底なれなかった
最下層の独居房と地上を繋ぐ唯一の扉が錆びた音を立て開かれた。
そしてガラガラとコンクリートの上を這うタイヤの音と、足音。
それは向き合った俺と松本の間でピタリと止まった。
「食事の時間ですよ」
その声に俺も、そして松本も俯いていた顔をげた。
視線の先に二宮が立っていた。
飄々とした態度は変わらないまま、鉄格子に取り付けられた差込口からトレーが差し込んでいく。
表情一つ変えることのない二宮に、俺の苛立ちが募る。
「二宮、お前…っ!」
格子の間から手を伸ばし、二宮の襟元を掴んだ。
ジリジリと捩じり上げれば、途端に二宮の顔から色が消えていくのが分かった。
理性なんてもんは、とっくに吹っ飛んでいた。
「智、やめろ!」
俺を制する松本の声と、二宮を俺の手から引き剝がそうと刑務官が駆け寄らなければ、俺はもしかしたら…