第13章 Invariable
「その説は大変世話になりやした」
店主が照れくさそうに頭を掻いた。
「全くだよ」
岡田がおどけて答えると、二人は顔を見合わせて笑った。
何の事だか分からない俺は、ただただ二人の顔を交互に見ながら、引き攣った笑顔を浮かべていた。
「おっ、櫻井が笑った!」
「な、なんだよそれ…俺だって…」
笑うことくらい…
「最近笑ってなかったよな?」
岡田の言う通りだ。
智君の件があってからと言うもの、俺は笑うことすら忘れていた気がする。
常に眉間に皺を寄せ、膨大な量の公判資料と睨み合ううち、笑い方を忘れてしまったのかもしれない。
「少し肩の力抜け、な?」
岡田が俺の肩をギュッと掴んだ。
そして更に言葉を続けた。
「肩肘張って我武者羅になるのもいいけど、そんなんじゃこの先乗り切れないぞ? それに、だ…」
不意に岡田が顔を俯かせた。
肩に触れた手が、少しだけ震えている。
岡田とはそこそこ長い付き合いではあるけど…
こんな姿を見たのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「岡…田?」
俯いてしまった顔を覗き込むが、どう声をかけていいのか分からない俺は、肩に触れた岡田の手に、自分の手をそっと重ねた。
「ごめん、櫻井…今だけ…」