第12章 Reunion
房に戻ると、丁度入浴時間だったのか、部屋には誰もいなかった。
松本は気に入りの定位置に腰を降ろすと、何かを考え込むように爪を噛んだ。
俺はと言えば、松本と二人きりの空間に耐えられず、松本とは一番遠い場所に腰を降ろし、膝を抱えた。
重苦しい時間の中、松本の爪を噛む音だけが、まるで時を刻む針のように響いた。
「なぁ…」
沈黙に先に耐えられなくなったのは、俺の方だった。
「なんだ…」
忌々し気に松本が答える。
「どうすんだよ?」
「何が…?」
ゾクリとするような低い声。
明らかに俺を牽制するような、そんな声に俺は膝を抱える腕に力を籠めた。
「だから、さっきの…」
「お前…、誰にも言うんじゃねぇぞ?」
松本がゆっくり腰を上げ、俺に向かってにじり寄る。
「い、言わねぇよ…。でも…」
言いかけた俺の顎を、松本の冷たい指先が掴む。
「でも、なんだ? 言ってみろよ、ん?」
怯えを隠せずにいる俺は、後ずさろうと膝を抱えた腕を解くが、俺の背後には冷たい壁。
逃げ場のない俺は、松本の手すら振り解くことも出来ず、冷たく見下ろす氷のような松本の目から逃れるように、ただただ視線を逸らすことしか出来ない。