第11章 State
「…やめて、下さい…」
漸く絞り出した声は酷く掠れ、微かに震える。
坂本が唇の端をクッと上げ、不気味な笑を称える。
「安心しろ? 俺は楽しみは後に取っとく質なんでな…」
シンと静まりかえった長い通路に、坂本の不敵な笑いが響く。
コイツ狂ってる…
いや、コイツだけじゃない。
松本だって…
みんな狂ってやがる…
背中を伝う冷たい汗に、身体がブルッと震えた。
「おっと、そんな怖い顔するんじゃないよ。な、大野?」
俺に与えられた番号ではなく、名前で呼ばれた瞬間、未だかつて無い程の恐怖が俺を襲った。
俺は坂本の股間に押し付けられた手を何とか引き抜き、一歩、また一歩と後ずさった。
「おいおい、そんな怯えなくてもいいじゃないか、ん?」
坂本がその距離を縮めようと、足を一歩踏み出した時だった。
「あれ~、坂本の親父さんじゃないですか?」
カラカラとワゴンを押す音と共に、一際甲高い声が響いた。
二宮…?
配膳の当番なのか、白いエプロンを着けた二宮が、ワゴンの陰からひょっこり顔を出す。
「何してんすか、こんな所で」
二宮の訝しむような視線が、俺と坂本の間を交互に見つめた。