第11章 State
雑居房までの通路を、長野と坂本に挟まれ歩く。
人気のない通路に、坂本の床を蹴る音と、俺の足を引き摺る音が無駄に響く。
足取りが重いのは、決して身体が痛むからじゃない。
背中に受けるコイツの…坂本の視線のせいだ。
俺は身体の震えを気取られないよう、必死で平静を装うけど、ままならない足元はそうもいかない。
足が縺れ、前のめりに倒れそうになった俺の腕を、坂本の手が掴んだ。
「しっかり歩け」
坂本の張りのある声が響く。
その声に前を歩く長野が足を止め、俺を振り返った。
「どうした?」
「なんでもない」
坂本が答え、俺の腕を引き上げた。
「大丈夫か? 顔色悪いぞ?」
長野が俺の顔を覗き込むのを、坂本の氷のように冷え切った視線が制する。
「長野刑務官。足を止めない様に」
「あ、はい…。すみません」
長野が慌てた様子で持ち場に戻り、俺達は再び歩を進め始めた。
医務室のある棟から雑居棟までの間には、いくつかの鍵のかかった鉄の扉がある。
その扉の鍵を、長野が次々開けて行き、漸く最後の鍵を開錠すると、長野が坂本に向かって敬礼をした。
そこで長野の役目は終わりだ。
最後の扉を潜った俺の背後で、ガチャンと施錠する音が響いた。
その瞬間、横を歩く坂本がニヤリと笑った。