第11章 State
「さて、お迎えが来たようだ?」
俺の払った手を白衣のポケットに突っ込み、ドアに向かって顎をしゃくって見せる。
そこに立っていたのは、堅物を絵に描いたような男。
「失礼します。井ノ原医務官、7005番は…」
男は井ノ原に向かって型通りの敬礼をし、一歩一歩と俺に向かって歩を進めた。
カツーンカツーンと、踵が床を蹴る音が、夕日の差し込む医務室に響く。
この音…
「7005番、両手を前に出しなさい」
それにこの声…
嫌な汗が額を伝う。
アイツだ…
独房で俺を…
心臓が口から飛び出しそうな勢いで脈打ち、目の前が真っ暗になる。
井ノ原の支えがなければ、立っていられない程、足元がグラつく。
「おい、大丈夫か?」
「…あ、あぁ、大丈夫…」
俺を覗き込む井ノ原の声に、やっとの思いで答えると、俺はガタガタと震える両手を揃えて差し出した。
俺の両手首に手錠をかける男の指には、光るリング。
あの時一瞬光った、あのリングだ。
間違いない。
やっぱりアイツだ…
疑念は確信に変わった。
「行くぞ」
「…はい」
男の手が俺の背中に添えられる。
瞬間ゾクゾクっと背筋を駆け抜ける悪寒。
気持ち悪ぃ…
吐き気がする…
「お願いします、坂本刑務官」
井ノ原が俺の横でペコリと頭を下げた。