第11章 State
全ての処置が済むと、井ノ原はデスクに向かってペンを走らせた。
「これでヨシと…」
パタンとファイルを閉じ、ペンを置いた井ノ原が、椅子ごと俺の方に身体を向けた。
「しっかしアイツも滅茶苦茶するよな…」
アイツ…松本のことか…?
「よっぽど俺のこと気に食わねぇんだろ?」
そうじゃなきゃここまでしないだろうし…
アイツは俺のことを、体の良い玩具程度にしか思っていないんだから。
「うーん、本当にそうなのかな…」
井ノ原が真剣な顔で首を捻る。
そしてベッド脇のパイプ椅子に移動すると、俺の顔を覗き込み、ニッと笑って見せた。
「な、なんだよ、気持ち悪ぃなぁ…」
「ん? いやな、お前アイツのこと何も分かってないんだな、と思ってな?」
「なんだよそれ…」
「あの時のアイツ、必死だったよ」
”あの時”…
俺が起こした自殺騒動のことを言ってるのか?
シャワーブースで倒れている俺を最初に発見したのは、松本だったとは聞いている。
「顔面蒼白っての? アイツの方が死人みたいな顔してな? 俺が駆け付けた時、アイツお前の名前叫んでたよ…”死ぬな”ってな…」
嘘…だろ?
アイツが…?
俄かには信じ難い話に、俺は戸惑いを隠せず、ゆっくりとした口調で語る井ノ原を、ただただ見つめていた。