第10章 Testimony Ⅱ
「兄ちゃんから名前は聞いてましたから。…それに兄ちゃん言ってましたから…、お坊ちゃん育ちの世間知らずで、一見頼りなく見えるけど、実は凄く芯が強くて、熱い奴なんだ、って…。
今日初めてお会いして、兄ちゃんの言った通りの人だなって」
智君が俺のことをそんな風に思っていてくれたなんて、俺は今の今まで知らなかった。
俺達の間に言葉なんて必要なかったから。
視線を交わし、肌を合わせるだけで…それだけで良かった。
それだけで俺達は通じ合えていたから…
「その時計…櫻井さんのしてる時計、もしかして兄ちゃんの?」
俺は無意識のうちに時計の嵌まった手首を握り締めていた。
「これ、ですか?」
「はい。兄ちゃんの好きな色だから」
智君の好きな色…
「安物だけど、文字盤のデザインが変わってる、って」
雑踏の中で踏みつけにされ、傷だらけになった文字盤を指でなぞる。
晴れ渡った、雲一つない夏の空のような鮮やかなブルーが目に眩しい。
「ペアだとも言ってました。兄ちゃんは確か…赤だったと…。櫻井さんの好きな色なんですよね?」
あの日、智君が連行されて行く間際に、チラリと見えた腕時計。
あれは確かに俺の好きな色だった。